木蓮きれい

『GOTH』乙一

GOTH―リストカット事件

GOTH―リストカット事件


乙一とのファーストコンタクト。
なのであとがきにあるような
「この作品は従来の乙一作品に比べ「せつなさ」が足りない」
という評価はわかりません。
なんとなくあー、この人はセンチメンタルなミステリを書く人なんだなと先入観。
短編なので夜寝る前に読むのにちょうどよかったです。
眠いときは一章だけ読んだり、そうでもないときは一話読んじゃったり。
一緒に借りた『ZOO』の帯に天才的短編作家とあるので
あー、天才の人なのかと再先入観インプリティング完了。


教室や自宅では温和な仮面をかぶっている主人公と
似た嗜好を持つクラスの影にいつく黒髪の少女が
事件に巻き込まれるわけでもなく、傍観しストーキングする。
主人公の少年は事件を解決するわけでもなく
かといって一族の名を賭けて謎を解くのでもなく
観察と追跡に徹する。


少女のイメージはどうしても栗山千明になる。
黒髪でぱっつんで近寄りがたい雰囲気を含んだものを
身の回りにまとわりつかせている。
そんなんが教室にいるってのがファンタジー
そんな少女と唯一言葉を交わせる主人公。
人と親しい間柄になりたいのなら
共通の敵を見つけるか、秘密を共有するかどちらかだと思うが
敵は相容れることのできない社会で秘密は彼らの嗜好。
死体の写真を見たり、殺人事件の現場に行ってみたりという
悪趣味な好奇心をチケットに換えて行き来する。


毎回話の最後には実はこうでしたーみたいな種明かし(?)が
あるんだけど、どれもこれもあまり面白くないというか
度肝を抜かれたりはしなかったです。
おそらくその手のトリックというかネタはサービスみたいなもので
それが小説の本質(なんのことだかわかんない)ではないっぽい。


主人公達のキャラありきの小説だと思うのだけど
それがどうにもいけすかないというか共感できないというか
ムカつく。
劣等感(社会に溶け込めないとか)を優越感に摩り替えて
自分のことを特別だと思いこむ性質を僕はあまり好まない。
少年のほうは社会に溶け込むことを
日常的かつ無意識にできることになってるけど
少女はかたくなに拒んでいる。
で、まぁ、小説だから美しい少女ということになってるわけだけど
へぇとしか感想が出ない。


つまらなかったわけではないんだけど特に面白くもなかった。
テキストがゲームみたいだった。