でるこストライク

今年の春先、一通のメールが携帯に来た。
でるこという人物からのもので内容はメアドを変えたというものだった。
メアドを変えたもなにも僕はでるこという人物に覚えがなかったし
前のメアドも知らなかった。
同報で僕以外の人に送っているメアドを見ても
誰一人知ってるアドレスはなかったので
間違いメールだと認定し、これは出会いのチャンスだと判断。
「久しぶり、今何してるの? 今度飲みにでも行こうよ」
と返信し、ひくひくと返事を待った。
僕はてっきり「すいません、間違えちゃいました」
みたいなメールが来ることを期待していたが
数時間後に来た返事は僕の予想を裏切っていた。
「覚えていてくれて光栄です!今度一緒に飲みまっしょい!」
どうやら知人だったらしい。
縁遠いサークルの後輩なんじゃないかと思い
知り合いにさりげなく聞いてみても誰も知らない。
結局でるこの件は闇に葬り去られた。


先週、僕の通う大学で学園祭が行われ
僕はコピー誌を作って販売していた。
ひとりきりで人気のない教室を借りてやっていたため
たいした集客を見込めるはずがなく
僕は方々に宣伝メールを送ることにした。
一括で送信しても見流されるだけなので
出来る限り一人一人コメントをつけたりして
必死の販売戦略を展開した。
いい加減小さなボタンを押すのにも疲れてきたころ
次は誰にメールしようかアドレス帳を眺めているときに
でるこの名前を発見した。


でるこが誰なのか突き止めるチャンスかもしれないと思いすぐにメール発射。
返事を待った。
数十分後に来たメールは
「告知かしこまりました。五号棟見に行きます。」とのこと。
ついにでるこの正体が白日に晒されるときが来た。
僕はでるこが来るのを今か今かと待ちわびた。


結果から言うとでるこに会うことはできなかった。
コピー誌は50冊ほど売れたがそのほとんどが知人で
僕と面識がない人が買ってくれたのは7冊。
その中にでるこがいたかもしれないが
折角来たのに話しかけないなんてことは
考えられないし、そもそも若い女性はいなかった。
あと、一人きりでやっていたので
一日中教室にいなくちゃいけなかったんだけど
退屈だし、一箇所でじっとしているのが苦手で結構席を空けていた。
あとから聞くところによると何人かはその間に売り逃したらしい。
もしかするとその間にでるこが来ていたのかもしれないが
真相は以前闇の中だ。