最近お酒を飲むようになってしまいました。

元来喘息持ちでなおかつアセトアルデヒド脱水素酵素を持たない体なので
お酒は苦手なのです。

だから飲み会なんかでは飲むことがあっても一人で飲んだりということは、
よほどのことがない限りなかったんですけど近頃一人で飲むんです。

ある晩布団の中でうだうだしてるとき、いつもならあの子のことばかり考えているというのに
なぜかお酒のことを考えていてちょっと飲んでみるかという気持ちになったのです。

偶然、先日うちにやってきた連中の残していった缶チューハイが一本あったので
もう外は暗闇ではなく、群青の空が広がってたのですが、プシュリとあけました。

で、ぐびぐびぐびと飲んでいい気分になってごろんと横になっていたら寝入ってしまい、
起きたら日はとうに高く、某社の説明会には間に合いませんでした。

それ以来、日も傾くとなにやら胸のうちがもやもやして、
学校帰りのタネキンで一つ買って帰るかなんてことを考え出すわけです。

帰宅後ご飯を食べて、一杯飲んでテレビなんぞをぐだぐだ眺めて、
たまには腹も抱えて笑ってみたりするわけですが、丑三つ時には少し寂しくなって
またふらふらとコンビニに足を向けるのです。

一つ買ってプルタブを引き上げて静寂の夜の街に炭酸の響く音を聞かせてやると
ぬるい空気が僕になれなれしく擦り寄ってきたりもするのです。

小学校のころ、注射を打った後の脱脂綿を搾って啜って酒だとはしゃいだ。
そのときと同じ味がする。
不味くて身震いする。
ちょっとレモンの香りがするのはそのころよりも少しだけ大人になったからだ。
もしくは人心惑わす液体に唇寄せるこの行為が多分キスだからだ。

やはりファーストキッスはレモンの味だ。

公園に向かって歩いていくんです。
そこで僕は彼女に会うんだ。
めんどくせえからとっととネタばらしをすると彼女は猫だ。

ひとなつっこくて誰が近寄っても逃げやしない。
体が痒いときだけ擦り寄ってくるぶちの不細工な猫だ。
あばずれだ。糞ビッチだ。

昨夜はベンチで寝ていた。
その横で僕は猫のあごの下を撫でたり抜けた毛を払ったりした。

今日はそのベンチに人が寝ていた。
いびきをかいておった。

今夜は会えないのかと思ったら悲しかった。
あああ、僕があの猫に名前をつけないのはなぜだかわかった気がした。

ベンチで寝ている男のいびきを聞いて、飲んでいたら目の前の石段に猫寝ていた。

近づくと起きてまた寝た。
昨日と同じように背中を撫でて抜けた毛を払い、めやにのたまった目を見た。

いくら撫でても毛が抜けるだけでにゃーとか言ってくんないから俺帰るわっつって帰った。
お前に名前なんかやんない。