考えすぎですよ

先日歩いているとかばんが落ちているのを発見。
小さなトートみたいなやつで中身が散乱していて、
ヴィトンの財布が見えた。

なにやらきな臭いスメルがぷんぷんしたので
興味がわいて、内容物を慎重に確認。
ガス代の払い込み領収書らしきものがあり、
記載してあった名前を採取。
予想通り若い女性っぽい名前。

紙切れがまとめて数枚重なっていた中に
ポラロイドがあったので引き抜いてみると
犬の写真。
コリー。
はずれ。

もう一枚を引き抜こうとしたところで足音がしたので
慌てて撤退。
僕は何も悪くないんだが、恐ろしいことばかりが脳裏をよぎった。

犯罪のにおいが充満した落し物だったが
警察には行かなかった。
そんな発想すらなかった。

僕はその後GAPに行って、買うか迷っていたナイロンのパーカと
メッシュのタンクトップを買い現場に戻った。

財布や写真、全部をGAPの紙袋に詰めて持ち去るつもりだった。

別に高級品の財布なんかが欲しいわけでもないし、
中に紙幣が残っていることも当然期待していない。

ただ、おそらくなんらかの暴力に巻き込まれた鞄と
その持ち主にまつわる極めてパーソナルなものが欲しかった。
残されたものを見ているだけですごく興奮する。
人の手にあった温度が伝わってくる。

状況だけではわからないが、仮に引ったくりされて
金だけ抜き取って捨てられた鞄だとして、
僕はその抜け殻をさらに強奪するハイエナ。
やり方は卑怯極まりない、腰抜けのこそ泥だけど、
抵抗できない力で奪い去るという点で強奪。

暴力の小さな結晶をコレクションしたい。

レイプされて殺された死体をさらに犯すような
ネクロフィリア行為に夢中になって
僕はGAPで買い物までして現場に戻った。

犯人は現場に戻るというより、現場に戻ってきたやつが犯人なんじゃないか。
僕が犯人なんじゃないかという気になって、さらに腰が引けた。

しかし、残念ながらすでに鞄は影も形も残っていなかった。
僕が、逡巡していた間に誰かに先を越されてしまったらしい。

少しがっかりしたものの、それでよかったという安堵も沸いてくる。
あんなもの手にして得られる悦びはなんだか腐臭がする。
腐ってるけど、美味いと思う。